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双子研究

努力できるかどうかも遺伝する?|双子研究が教えてくれた本当のこと

努力できるかどうかも遺伝する?|双子研究が教えてくれた本当のこと

先日の社内会議で、こんな一言が出ました。 「努力できるかどうかって、生まれた時から決まっているらしいよ」 その場は笑って次の議題に進みました。でも、帰り道もずっと引っかかっていたのです。三日坊主で終わった英語アプリ。続かなかった朝の散歩。あれも生まれつきだったのでしょうか。 気になって、元になっていそうな研究を調べてみました。先に結論を書くと、この話は半分だけ本当です。 双子の研究が「やり抜く力」の遺伝を調べた よく引き合いに出されるのが、キングス・カレッジ・ロンドンのリムフェルドらが2016年に発表した論文です。英国で長く続いている双子研究「TEDS」に参加した16歳の双子、2,321組(4,642人)を調べました。 測ったのは「グリット」と呼ばれる力です。心理学者のアンジェラ・ダックワースが広めた言葉で、日本では「やり抜く力」と訳されています。研究ではグリットを2つに分けました。壁にぶつかっても努力を続ける「粘り強さ」と、同じ目標への興味が続く「一貫性」です。 なぜ双子なのか。一卵性の双子は遺伝子がほぼ同じで、二卵性の双子は平均して半分ほどが同じです。どちらも同じ家で育つので、家庭の環境は似ています。それでも一卵性のほうが性格がよく似ているなら、その差は遺伝の影響だと考えられます。 調べた結果、粘り強さの遺伝率は37%、興味の一貫性は約20%でした。 もう1つ、面白い発見があります。グリット、特に粘り強さは、昔から知られている性格の「勤勉性」とほとんど同じものでした。遺伝的な重なりを表す相関は0.86。かなり高い値です。勤勉性などの性格をふまえたうえでグリットを足しても、16歳で受ける全国試験(GCSE)の成績の予測は0.5%ほどしか良くなりませんでした。 つまり「努力する力は遺伝する」という話は、言い換えると「まじめさという性格には、遺伝の影響がある」ということです。 「遺伝率37%」は「37%決まっている」という意味ではない ここで誤解しやすいのが、遺伝率という数字の読み方です。 遺伝率37%と聞くと、「自分の努力のうち37%は生まれつき」と受け取りがちです。でも、そうではありません。遺伝率は、たくさんの人を並べたときのばらつきのうち、遺伝の違いで説明できる割合です。1人の人の中身を切り分けた数字ではありません。身長がいい例です。身長の遺伝率は8割前後と高いのに、日本人の平均身長は戦後の数十年で大きく伸びました。食べるものが変わったからです。遺伝率が高くても、環境が変われば結果は動きます。 しかも、粘り強さの場合、残りの6割以上は遺伝ではありません。この研究では、家族で共通する環境の影響、たとえば同じ家で同じしつけを受けたことの影響は、ほぼゼロでした。残りは「その人だけが経験したこと」で説明されます。どの先生に出会ったか。どんな友達といたか。何に夢中になったか。この部分には測定の誤差も含まれますが、遺伝よりも大きな割合を占めています。努力だけが特別なわけでもありません。2015年に、50年分の双子研究、約1,460万組ぶんをまとめた分析が発表されています。性格も、体の特徴も、病気のなりやすさも、遺伝の影響を受けていました。値の高い低いは特徴ごとに違いますが、全部をならすと遺伝率は49%。だいたい半分です。努力する力の37%は、むしろ控えめなほうです。 努力が苦手なら、根性より環境を選ぶ では、努力が苦手な人はどうすればいいのか。私の答えは、意志の力に頼るのをやめることです。 遺伝の影響があるということは、同じ「がんばれ」でも、人によってかかる負担が違うということです。軽く続けられる人もいれば、毎回かなりの力を使う人もいる。後者の人が同じやり方で張り合っても、くたびれてしまうだけです。 だから、がんばらなくても続く形を先に作ります。英語の勉強なら、朝の電車でアプリを開くと決めてしまう。運動なら、自分との約束ではなく友達との約束にする。やりかけの資料を机に出したまま帰るのも、立派な工夫です。翌朝、始めるまでの一歩が小さくなります。 努力できるかどうかには、生まれつきの差があります。けれどその差は、続けやすい環境でかなり縮められる。6割以上が環境の側にあるのなら、使わない手はありません。 AIは「努力の差」を埋める支えになれるか ここに、AIの出番があると考えています。 努力が続かない理由の多くは、始めるまでのハードルと、1人で続ける心細さです。何から手をつければいいか分からない。途中で誰も見ていない。こうした壁は、本人の意志よりも、隣で声をかけてくれる誰かがいるかどうかで大きく変わります。 AIは、その「誰か」の役を少し引き受けられます。やることを小さく分けてくれる。進み具合を覚えていて、昨日の続きから声をかけてくれる。できなかった日を責めずに、次の一歩を一緒に考えてくれる。 やさしいAI研究所が目指しているのは、こういう、人を急かさないAIです。生まれつきの差を「努力不足」と片づけず、その人に合った続け方を一緒に探す。そんな伴走役になれたらと思っています。 会議のあの一言に、いま答えるなら 「努力できるかどうかは、生まれた時から決まっている」 調べ終えた今なら、こう答えます。決まっているのは、スタート地点の違いだけ。どこまで行けるかは、まだ何も決まっていません。 三日坊主の英語アプリ、もう一度開いてみようと思います。今度は、朝の電車の中で。次に読むのがおすすめの記事バットとボールの問題、即答できますか?|直感と熟考、AIの「考えるモード」をやさしく AIは自分の「わからなさ」に気づけるか——メタ認知とAIをやさしく参考文献Rimfeld, K., Kovas, Y., Dale, P. S., & Plomin, R.「True grit and genetics: Predicting academic achievement from personality」Journal of Personality and Social Psychology, 111(5), 780–789(2016年) / doi.org/10.1037/pspp0000089 Polderman, T. J. C., et al.「Meta-analysis of the heritability of human traits based on fifty years of twin studies」Nature Genetics, 47(7), 702–709(2015年) / doi.org/10.1038/ng.3285 Duckworth, A. L., Peterson, C., Matthews, M. D., & Kelly, D. R.「Grit: Perseverance and passion for long-term goals」Journal of Personality and Social Psychology, 92(6), 1087–1101(2007年) / doi.org/10.1037/0022-3514.92.6.1087「やさしいAI」の研究や活動に関心をお持ちの方は、毎週土曜日のオープンラボへお気軽にどうぞ。やさしいAI研究所の全体像はコーポレートサイトからご覧いただけます。