なぜAIの文章はコピペしてもバレるのか?テキスト電子透かしの仕組み
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Ryusuke Ueki - 25 Aug, 2026
やさしいAI研究所の植木です。
毎日AIを使っていると、自分で文章を書くことがほとんどなくなってしまいました。 あからさまにAIが書いたとバレるのも嫌だなと思い、少し小細工をしてみるものの、そもそもどのような仕組みでバレるのかを知る必要があります。
画像等のファイルなら「作成者情報(メタデータ)」が残るイメージが湧きます。しかし、プレーンテキストをコピペしているだけなのに、なぜAIは判別できるのでしょうか。
その鍵となるのが、テキストに埋め込まれる「電子透かし(ウォーターマーク)」です。この記事では、Anthropic社が公開したブログ記事をもとに、その仕組みを簡単にまとめてみました。
1. はじめに
Anthropic社は、2026年8月2日以降に公開されるClaudeが生成するテキストに、目に見えない電子透かしを埋め込むと発表しました。理由は、EU AI Act 第50条への対応です。EU向けの規制対応ですが、現時点では地域を限定せず全世界に適用されているようです。
ちなみに、電子透かしの技術は、Gemini(Google社)が先行しており、2024年からSynthID-Textが本番稼働しており、大規模なテキスト透かしとしては初の実運用例だそうです。
2. よくある勘違い:「見えない特殊文字」が入っているわけではない
「文字の隙間に、透明な特殊文字(ゼロ幅スペースなど)が仕込まれているのでは?」私はこのように思っていたのですが、非常によくある誤解で、違ったようです。Anthropic社の電子透かし技術は、テキストには何も追加されておらず、隠し文字も存在しておりません。
- 読んでも、ごく普通の自然な文章
- 見た目も文字コードも一般的なテキストのまま
- メモ帳に貼り付けて書式情報を落としても消えない
- 文章の質や読みやすさには実質的に影響はない
では、どのような細工が仕掛けられているのでしょうか。
3. 細工:「単語を選ぶときの“サイコロ”の振り方」
結論から言うと、AIの電子透かしは「どの単語を選ぶか」を決める乱数の“出どころ”を差し替えることで実現されています。
AIは文章を作る時に、1単語ずつ選んでいる
まず、AIは、文章を一気に書いているのではなく、「次に来る言葉として自然なものを予測して1つ選ぶ」という動作をひたすら繰り返して、文章を作成しています。
たとえば「今日の天気は晴れていて、そして……」という文の続きを考える時に、「辛い」が来ることはまず考えられません。例えば、「心地よい」も「清々しい」も、どちらも自然で、文の続きとしてはあり得る選択肢になります。
こうした「どちらでも良い選択」が、1つの文章の中に何百回も発生します。そして通常、どちらにするかの最終決定は、乱数(コンピューター内部のサイコロ)に委ねられています。
透かしは、その乱数を「鍵」に置き換える
透かしを入れる場合、AIはこの乱数の代わりに、「秘密の鍵」と「直前の数単語」の組み合わせから次の単語を決めています。
重要なポイントは、選択の結果は、依然としてランダムに見えるという点です。「心地よい」に固定されるわけではなく、ある文では「心地よい」、次の文では「清々しい」が選ばれます。また、この仕組みは、AIが本来まず使わないような珍しい言葉を無理に選ばせることもありません。
しかし、「秘密の鍵」を持っている人が後から単語の並びを検証すると、「この並びは、その鍵を使って選んだ場合の結果と一致している」ことが分かります。
Anthropic社自身が挙げている例を紹介します。
ボードゲームのモノポリーで、サイコロを振る代わりに「円周率の数字が延々と書かれた本」を使うとします。適当な桁からスタートし、以降は次の桁の数字をそのまま「出目」として使うというルールです。
プレイヤーにとって、これは普通のサイコロと何ら変わりません。ゲームの体験も結果も同じです。しかし、ゲーム終了後に全ての出目を並べて円周率と照合すれば、「この試合は円周率を使っていたな」と判定できます。
AIの透かし技術と同じ発想です。読み手の体験は変わらないが、後から検証はできます。
とある解説記事では、「AIが単語候補を“緑リスト(優先)”と“赤リスト(回避)”に色分けし、緑の単語を多めに選ぶ」という説明をよく見かけます。
この説明は、2023年に発表された別方式(赤・緑リスト方式、John Kirchenbauerらの手法)で、Claudeが採用している方式とは異なります。Claudeが採用している透かしは、Google DeepMindが発表した「SynthID-Text」をベースにしており、単語の出やすさ(確率)そのものを歪めるのではなく、あくまで乱数の生成源だけを置き換える設計のようです。これが「品質に影響しない」と言える根拠にもなっています。
4. なぜコピペしてもバレるのか?
透かしは文字の中ではなく、文章を構成する「単語の並び順」そのものに宿っているからです。
メタデータではないので、書式を捨てても、別のアプリに貼り付けても、テキストファイルに保存し直しても消えません。オーマイガー。並び順が保たれている限り、透かしも一緒についてきます。
逆に言えば、単語やその並び順を全面的に書き換えれば透かしは失われます。軽い手直し程度では消えませんが、すべての語を置き換えるレベルの全面リライトをすれば消えます。そこまで書き直したものを「AIが生成した文章」と呼ぶべきかどうかは、別の議論になりそうですが。。。
5. バレやすい/バレにくい文章
この仕組みの性質上、バレやすい/バレにくい文章がはっきりしています。
- バレやすい文章
- 文章が長い
- プログラム中のコメント部分
- 翻訳した文章
- バレにくい文章
- 文章が極端に短い(選択回数が少なく、偶然との区別がつきにくいため)
- 事実を述べる文章(答えが1つしかない箇所では、選ぶ余地がないため)
- プログラムコード(正確さが求められ選択の余地が少ないため)
- 人間の原稿の校正(修正した数語にしか透かしが入らないため)
6. 「透かしが検出された=不正」ではない
透かしが示せるのは、「AIが何らかの形で関与した可能性が高い」ということだけです。Anthropic社も、「Claudeが書いた」のか「Claudeが大幅に手を入れた」のかは区別できないと明言しています。例えば、
- 他社のAIが書いた文章は、鍵が違う(方式が違う)ため判定できない。
- 透かしに個人や組織を特定する情報は一切含まれない。誰がいつ使ったかを追跡することはできない。
- 自分で書いた文章の「てにをは」だけをAIに直させた場合、修正された数語には透かしが乗り得ますが、修正量が少なすぎて、透かし検出には至らない。
しかし、「人間がちゃんと書いたのに疑われるのでは」という懸念が利用者から出ているのは事実で、この技術の運用面での課題として残っているようです。
また、現在世の中にある一般的なAI検出サービス(GPTZeroなど)は、透かしを読んでいるわけではありません。さきほどの「秘密鍵」を持っていないからです。これらは「AIらしい言い回しのクセ」を統計的に見つけ出す、別のアプローチです。
Anthropic社は、今後、透かし検出用のAPIを提供する予定としていますが、2026年8月時点では準備中とされています。現状、「透かしを根拠にAI製だと断定できるツール」は一般に公開されていません。
「コピペしただけなのにバレた」という体験談の多くは、現時点では透かしではなく、従来型のAI検出ツールや、単に人間の目による違和感の指摘である可能性が高いと考えられます。
7. 画像等のファイルは「別の方式」
テキスト以外のファイル(.png、.jpg、.svg など)については、透かしではなくC2PAという業界標準の仕組みが使われます。これは「Claudeが作成・処理した」という情報を、暗号署名付きのメモとしてファイルの作成者情報(メタデータ)に添付するものです。カメラメーカーや写真編集ソフトでも採用されている標準規格で、C2PA対応ツールなら誰でも読み取れます。
まとめ
- Anthropic社のClaudeの電子透かし技術は、特殊文字を挿入しているのではなく「単語選択の乱数の出どころ」に埋め込まれています。
- そのためコピペでは消えず、全面リライトで初めて消えます。
- 透かしは、文章の質には影響がなく、個人を特定する情報も含まれません。
- 証明できるのは「Claudeが関与した可能性」までで、不正の証拠にはなりません。
- 一般向けの検出ツールはまだ公開されていない状況です。(2026年8月時点)
AI生成物の透明性をめぐるルール作りは、まだ始まったばかりです。だからこそ、仕組みを正しく理解しておくことが、AIを安心して使いこなすための第一歩になりそうです。
参考リンク
アイキャッチ・図版は、特記のない限りAIで生成した画像を画像編集ソフトで加工して制作しています。人物・イベントの写真は実際に撮影したものです。