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ミラーニューロン

他人のあくびがうつるのはなぜ?——ミラーニューロンとAIをやさしく

他人のあくびがうつるのはなぜ?——ミラーニューロンとAIをやさしく

隣の人があくびをすると、つられて自分もあくびが出る。誰かが指をドアに挟むのを見ると、思わず「痛っ」と自分の顔がゆがむ。 自分は何もしていないのに、他人の体験がまるで自分のことのように伝わってくる。この不思議な現象の裏には、ある神経の働きがあると考えられています。 脳科学とやさしいAIシリーズの最終回は、共感の土台ともいわれる「ミラーニューロン」から、AIと共感を考えます。(第1回・メタ認知、第2回・アロスタシスもどうぞ。) ミラーニューロンとは「他者を映す鏡」 ミラーニューロンは、1992年にイタリア・パルマ大学のリゾラッティらの研究チームが、サルの脳(運動前野のF5という領域)で見つけた神経細胞です。 発見はほとんど偶然でした。サルが自分で物をつかむときに活動する神経を調べていたところ、そのサルが「研究者が物をつかむのを見ている」だけのときにも、同じ神経が活動したのです。 つまりこの神経は、自分がその行為をするとき 他者が同じ行為をするのを見るときの両方で活動する。他者の行為を、鏡のように自分の脳の中で映し出す。だから「ミラー(鏡)ニューロン」と名づけられました。その後、人間の脳にも似た仕組みがあると考えられるようになり、「他者の意図の理解」「模倣による学習」「共感」といった、人が人とつながるための力の土台として、大きな注目を集めてきました。 「頭で理解する」と「体で感じる」の違い ミラーニューロンが教えてくれる大切なことは、共感には二つの層があるということです。 ひとつは、頭で「この人は今つらいのだろう」と推し量る理解。もうひとつは、相手の痛みを見て自分の体まで反応してしまう、体でともに感じる共感です。 ミラーニューロンが関わるとされるのは、後者に近い、身体をともなう共感です。相手の行為や表情を、自分の身体の回路を通してなぞることで、言葉になる前の「わかる」が生まれる。そんなイメージです。 私たちが誰かに寄り添えるのは、この「頭の理解」と「体の共鳴」の両方があるからだと考えられます。(なお、ミラーニューロンは長く身体的な共感に関わるとされてきましたが、近年の実証研究ではむしろ認知的共感(相手の視点の理解)との関連が示唆され、情動的・運動的な共感との結びつきはさらに弱いとされるなど、その役割にはなお議論が続いています。ここでは「共感を考えるための手がかり」として紹介しています。) AIに「共感」はありうるのか ではAIはどうでしょう。ここで、さきほどの二つの層が効いてきます。 「頭の共感」はかなりできる AIは、相手の言葉や状況から「この人は今つらそうだ」と推し量り、それに合った言葉を返すことが、すでにかなり上手にできます。これは認知的共感、つまり頭で理解して応答するタイプの共感に近いものです。 やさしいAI研究所が取り組んでいる感情への配慮や、文脈に合った言葉選びも、多くはこの層で実現されていきます。相手の状況を読み、適切なタイミングで、適切なかたちで応える。ここはAIの得意分野になりつつあります。 「体の共感」は持っていない 一方で、AIには身体がありません。相手の痛みを見て、自分の体がヒヤッとする。そういう身体をともなう共鳴は、今のAIは持っていないと考えるのが自然です。ミラーニューロンが映し出すような「自分のこととして感じる」層は、まだAIの外にあります。 ここで大事なのは、「感じているふり」と「本当に感じること」を混同しないという誠実さです。AIが共感的な言葉を返せることと、AIが痛みをともに感じていることは、別の話です。 だからこそ、やさしいAIが目指すのは「感情があるふりをするAI」ではありません。身体的な共感は持たないと正直に認めたうえで、それでも相手を大切に扱う応答を、丁寧に設計していくこと。そこに、人とAIの誠実な関係の芽があると私たちは考えています。 まとめミラーニューロンは、自分が行為するときも他者の行為を見るときも活動する「他者を映す鏡」 共感には「頭で理解する層」と「体でともに感じる層」があり、後者にこの神経が関わるとされる AIは**頭の共感(認知的共感)**はかなりできるが、身体をともなう共感は持っていない 「感じるふり」と「本当に感じる」を混同せず、正直さの上に配慮を重ねることが、やさしいAIの姿勢他者を自分のことのように映す。この人間らしい力を手がかりに、AIにできること・できないことを見極めていく。それが、やさしいAIをつくる出発点になります。 シリーズを終えて 3回にわたって、メタ認知(自分を見張る力)、ホメオスタシスとアロスタシス(揺らぎながら安定する力)、ミラーニューロン(他者を映す力)という脳科学の視点から、AIを眺めてきました。 共通していたのは、「できる」ことと「わかる・感じる」ことは違う、そしてその違いに正直であることがやさしさにつながる、という一点です。脳のしくみは、AIが人に寄り添うためのヒントを、まだまだたくさん秘めています。次に読むのがおすすめの記事AIは自分の「わからなさ」に気づけるか——メタ認知とAIをやさしく 揺らぎながら安定する——アロスタシス、ホメオスタシスとAIをやさしく 「やさしいAI」とは何か——便利さを超えた、人に寄り添うAIを考えるやさしいAI研究所ブログ|脳科学とやさしいAIシリーズ(全3回)第3回・完 脳科学とやさしいAIシリーズはこれで完結です。続きの議論を一緒に深めたい方は、毎週土曜日開催のオープンラボへぜひお越しください。やさしいAI研究所の研究活動や最新の取り組みについてはコーポレートサイトからご覧いただけます。